SSDコントローラの市場予測と代表的な製品を解説
本連載の第1回では「フラッシュストレージ」が、フラッシュメモリを記憶媒体とするストレージ(データを保存しておくモジュールや装置など)を意味することと、代表的なフラッシュストレージ製品の事例をご説明しました。
第2回では、フラッシュメモリにはNANDタイプとNORタイプがあり、ストレージに使われるのはNANDタイプのフラッシュメモリ(「NANDフラッシュメモリ」あるいは「NANDフラッシュ」とも呼ばれる)であること、代表的なフラッシュストレージであるSSD(Solid State Drive)の内部ブロックとSSDコントローラの役割について概略を述べました。
第3回では、もう1つの代表的なストレージであるハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)と、SSDの共通点と相違点を簡単に述べるとともに、SSDが特有の複雑さを抱えている原因と対処手法を簡単に記述しました。
第4回では、SSDコントローラが扱わなければならない特有の記憶技術「多値記憶」の仕組みを述べてから、多値記憶を採用したNANDフラッシュメモリをSSDでコントローラがどのように扱っているかを解説しました。
第5回となる今回は、SSDコントローラの市場規模を述べるとともに、SSDコントローラの代表的な製品の事例をご報告します。
今後5年~7年に市場規模は年率14%前後で成長
始めはSSDコントローラの市場規模です。市場調査会社2社の公表値を紹介します。
市場調査会社Maximize Market Researchは2023年の世界市場規模を278億4000万ドルと推定しています。この金額には外販だけでなく、内製も含まれていると見られます。最近では大手NANDフラッシュメモリベンダーのすべてが自社ブランドのSSD製品を販売しています。SSD市場のシェアトップを占めるSamsung Electronicsを始め、これらの大手NANDフラッシュベンダーによるSSDの多くは、内製のSSDコントローラを搭載しています。
同社は今後の市場成長率を2024年から2030年までの期間で平均14.31%と予測しています。かなり高い伸びです。
別の市場調査会社Market Research Futureは2023年の世界市場規模を194億8500万ドルと推定しています。Maximizeの推定にくらべると、かなり低めです。
市場成長率は2024年から2032年までで年平均13.27%と予測しています。こちらはMaximizeの予測にかなり近く、おおよそ13%~14%と業界では見ていることが分かります。この成長率はかなり高い値で、仮に年平均13.5%で成長すると、5年で1.9倍、7年で2.4倍、8年で2.75倍に増加します。
HDD互換のSATA品と独自仕様のPCIe品
SSDコントローラには大別すると、HDD互換のSSDを前提に開発した製品と、独自仕様(HDD非互換の仕様)によって性能を追求した製品に分かれます。NANDフラッシュメモリのアクセス時間はHDDの磁気ディスクに比べると大幅に短いので、HDD互換を維持しようとするとNANDフラッシュの性能が犠牲になってしまいます。
また応用分野によってもコントローラの仕様はかなり違います。データセンター/エンタープライズ用(サーバー向けSSD用)、クライアント用(デスクトップPC、ノートPC向けSSD用)、コンシューマ用(据え置きビデオゲーム向けSSD用)、産業用(防犯カメラ向けSSD用、製造装置向けSSD用)などの用途があります。
始めはHDD互換SSD用コントローラと独自(HDD非互換)SSD用コントローラの性能を比較します。HDD互換SSD向けは、HDDと同じSATA規格のホスト側インタフェースを備えた「SM2259XT2」です。独自SSD向けはPCIe Gen4規格のホスト側インタフェースを搭載した「SM2267XT」を取り上げました(HDD非互換のSSDはほとんどがPCIeインタフェースを採用しています)。いずれもクライアントSSD向けのコントローラです。
まずホスト側インタフェースを見ます。SATA品の「SM2259XT2」は6Gビット/秒のシリアルATA(SATA)バスを1つ、PCIe Gen4品の「SM2267XT」は1レーンが16GT/秒のGen4レーンを4つ備えます。「SM2267XT」は単純合計で64GT/秒の転送速度を備えますので、「SM2259XT2」の10倍を超えています。
このことは読み出しと書き込みの速度に大きく影響します。シーケンシャルアクセスですとSATA品の「SM2259XT2」とPCIe Gen4品の「SM2267XT」の転送速度差(最大値)は7倍近くに達します。ランダムアクセスでも入出力数/秒(最大値)の違いは6.7倍と大きく、NANDフラッシュのチャンネル数に2倍の開きがあることを考慮しても、かなりの差があることが分かります。
エンタープライズ向けとクライアント向けの違い
ここからは比較的新しいSSDコントローラ製品の仕様を報告していきます。ベンダーはMarvell Technology(以降はMarvellと表記)、FADU Technology(以降はFADUと表記)、Phison Electronics(以降はPhisonと表記)、Silicon Motion Technology(以降はSilicon Motionと表記)です。前半の2社からはエンタープライズSSDに向けたコントローラ製品、後半の2社はクライアントSSDとコンシューマSSDに向けたコントローラ製品を代表例として紹介します。
エンタープライズ向けとクライアント向けの違いはまず、接続可能なNANDフラッシュメモリのチャンネル数にあります。前者は16チャンネル、後者は8チャンネル/4チャンネルです。またエンタープライズ向けのコントローラは通常、ライトアンプリフィケーション(WA)(本連載の第3回をご参照ください)を低減する機能を備えています。また暗号化によってセキュリティ性能を強化しています。
意外なことに、読み出しと書き込みの最大性能はエンタープライズ向けとクライアント向けでそれほど違いはありません。SSDで重要なのは最大性能ではなく、実際の性能です。実際の性能はSSDの空き容量や使い方などによって変わるので、理論的な最大性能だけでは比較が難しいとも言えます。
また忘れてはいけないのが、SSDコントローラはファームウェアとセットになっているという事実です。コントローラのハードウェア(シリコンチップ)は複数のCPUコアを搭載しており、ファームウェア(プログラム)を読み込んで動作します。ファームウェアによってSSDコントローラの機能や性能などを具体化・最適化するとともに、NANDフラッシュベンダーによる違いを調整したりしています。
Marvellのエンタープライズ向け製品「Bravera SC5」ファミリ
それでは実際のSSDコントローラ製品を簡単に述べていきます。始めはMarvellのデータセンター/エンタープライズ向けコントローラ「Bravera SC5 SSD Controllerファミリ(MV-SS1331/MV-SS1333)」です。ホスト側とのインタフェースはPCIe Gen5 1✕4または2✕2、NVMe 1.4bとなっています。PCIeのデュアルポートに対応している点が特徴です。
シーケンシャル読み出し速度は最大14Gバイト/秒、ランダム読み出し性能は2M IOPSと、発表当時としては業界最高の性能をうたっていました。搭載するARMアーキテクチャのCPUコアは10コアに達しており、全体制御のほか、暗号化エンジン(複数)や誤り訂正エンジンなどに適用しています。
外付けDRAMとのインタフェースは64ビットデータと8ビット誤り訂正符号による72ビット・バスです。このバス幅はかなり広く、データセンター/エンタープライズ用SSDでもハイエンド品を想定しているとみられます。内蔵のDRAMコントローラはDDR4とLPDDR4Xに対応しています。
FADUのエンタープライズ向け製品「FC5161」
続いてFADUのクラウド/エンタープライズ向けコントローラ「FC5161」を紹介します。ホスト側とのインタフェースはGen5 1✕4または2✕2、NVMe 2.0(発表当初はNVMe1.4+)となっています。Marvellのエンタープライズ向け製品「Bravera SC5」ファミリと同様に、PCIeのデュアルポートに対応している点が特徴です。
シーケンシャル読み出し速度は14Gバイト/秒、ランダム読み出し性能は3.2M IOPSとかなり高くなっています。付加機能としてはSR-IOV機能、FDP機能、ネームスペース機能、電源ダウン保護機能、誤り訂正・検出(1ビットの誤り訂正と2ビットの誤り検出)機能、内部RAID機能、暗号化機能などを備えています。
Phisonのクライアント向け製品「PS5031-E31T」
ここからはクライアントSSD向けコントローラを紹介していきます。始めはPhisonのコントローラ製品です。代表製品は2つあります。1つはクライアントSSD向けの「PS5031-E31T」、もう1つはコンシューマSSD向けの「PS5028-E28」です。
クライアントSSD向けの「PS5031-E31T」は量産中であり、2024年~2025年の主力製品といえます。ホスト側とのインタフェースはPCIe Gen5 ✕4でエンタープライズ向けと遜色ありません。NANDフラッシュ側との接続チャンネル数は4チャンネルと少なめです。そしてホスト側メモリに外付けDRAMと同様の領域を確保するホストメモリバッファ(HMB)により、外付けDRAMのコストを省いています。
コンシューマSSD向けの「PS5028-E28」は2025年に量産が本格化し、SSDが出荷されるのは2026年の予定です。このため、次期製品という位置付けとなります。
ホスト側とのインタフェースはPCIe Gen5 ✕4、NANDフラッシュ側との接続チャンネル数は8チャンネルです。チャンネル数が「PS5031-E31T」の2倍に拡大しています。
「PS5028-E28」の最大の特徴は、エンタープライズ並みに高い読み書き性能のSSDを実現できる点にあります。シーケンシャル読み出しと同書き込みはともに最大14.5Gバイト/秒、ランダム読み出しと同書き込みはともに3M IOPSに達しています。
Silicon Motionのクライアント向け製品「SM2508」
最後はSilicon MotionのクライアントSSD向けコントローラ「SM2508」を紹介します。ホスト側のインタフェースはPCIe Gen5 ✕4、NANDフラッシュ側のインタフェースは8チャンネルのONFI/Toggle 5.0です。
シーケンシャル読み出し速度は14.5Gバイト/秒、同書き込み速度は13.6Gバイト/秒、ランダム読み出しとランダム書き込みの性能は2.5M IOPSとかなり高速です。Phisonの「PS5028-E28」と同様にクラアント向けながら、エンタープライズ向けに近い最大性能を実現しています。最大消費電力は3.5Wとかなり低めです。